今年第45回記念「日象展」の話題は、何といっても、青森県在住の田村まさよしさんの「青のサマー セー ター 」に尽きる。表題の様に、普段着に見を包んだ女性が、光の差し込む窓際で、アンティー クな椅子に深々と腰を落としくつろぐ。きわめて日常的な光景の写実作品だ。全体の構図、水彩という画材の特質を最大限に生かす破綻のない室内肖像画、と評してよいだろう。しかしこのレベルなら、どこの会派展を覗いても、よく観かけるパターンだ。入選は当然としても、とても受賞には遠い。当然のこととして私を含めた審 査員の前をそのまま通り過ぎた。
その間、数秒。
しかしなぜかふと、待てよという内心の声が小波を立てたのだ。もう一度 元の場所に作品を戻し、考え直した。
これは ただの肖像画ではないのではないか。もしかしたら日本の現代社会へのメッセージが密かに込められているのではないか・・・、と。その含意を説明し、他の審査員に企った。なかなか同意を得られなかったけれど、最終的に、文部科学大臣賞を授賞。
会場入口近くの壁面を飾り、多くの展観者の眼を集めた。
テクニックだけが、作品の評価対象ではない。対象の制 作意図や作者の社会感、世界観まで読み取らなければならないのだ。
それが正しい評価、というべきものではないか。これまで私が係わった「日象展」の審査のうち、もっともスリリングで、エキサイティングな審査だった。
本来の審査、いつもこうでなければならない。
小池タケシさんの「カスベ干す浜」にも言及したかったけれど締め切り時間がとうに過ぎている。こちらは、光景が見事に情景化している、 掛け値なしの秀作である事だけを伝えておこう。
【会期中の様子】
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第45回記念展会場入口風景 |
講評中の 中野 先生 |
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表彰式にて講評の 美術評論家・ ワシオ 先生 |
中西会長より 賞状が授与。昨年同様、受賞者の作品が会場壁面に映写された。 |
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