美術評論家 清 水 康 友 |
写真はトークショーでの
美術評論家 佃先生 |
第39回日象展は国立新美術館の会期等の再編により、前回展から約7ヶ月での開催となった。
展覧会の準備期間が短く、同会の執行部、出品作家には平常と異なる苦労があったと思われる。
そのような状況下での開催となったが、洋画部門は描写技術の確かな具象傾向の作品が高評価を得た。画面の左奥から前面へ、再び右奥へと移動してゆく人物像の様態を描く山下繁、愛らしい子供の様子を遠近感のある画面に描き出した平瀬柳子、理知的な画面構成で早春の山里を描く内藤則一、祭りの熱気とユーモラスな金魚の顔で魅せる松尾待子、松尾章平の地蔵像と小沢幸の祈る土偶は大震災への鎮魂か。永野綾子の造形センスや水川よしのりの発想の妙も光る、情感豊かな中西賢一はベテランらしい味わいをみせる。
日本画は大都会の不夜城を記号化した抽象形態で捉えた柘植好子、意表をつく人形の構成が新鮮な小川節子、筆勢豊かな吉川萩雨の墨作品、一般出品の藤野房子の装飾性と黒澤フクの人物描写は評価される。
紙彩画では、思い切ったローアングルからの画面が魅力を放つ篠原富代、明るい陽光の中、満開に咲く向日葵を描く山本美津子。花木容子の幻想性、確実な表現の岸君枝、大門イク、福田小百合は安定感を見せる。
工芸では木の幹を丸彫りし、曲線の動きを抽象美として創出した板垣裕美、刺子の技法で美しい色彩の幾何学模様を表現した戸塚万乃。伝統の技に則りながらも社会性を反映させた山本良恵の染め織り、深い思索性を漂わせる白旗スミ、律動感豊かな抽象表現が冴える管野
和は特質される。
小品部門では説明的要素を排除し、感性に訴えかける遠藤順夫の作品が異彩を放つ。
|
|
大賞受賞者の喜びの言葉 |
日賞大賞『セイロンの朝』を受賞して 洋画 山下 繁 |
私は二〇〇五年津波支援隊員としてスリランカに行きました。
セイロンは一九四八年に国名をスリランカと変更して イギリスから独立しました。
しかし現在も租借権を行使され今も厳しい規律と労働条件に縛られてれ紅茶を生産しています。
さて、作品は起草から長い時が流れやっと完成にこぎ着けました。
この作品は赤・緑・白を基調とし単純化に努め、熱帯地方の強烈な日差しを意識し点描としました。
背景の茶畑を静、人物を動とし、作品展示の際、光の乱反射を期待して厚塗りに心掛ける事になりました。
|
工芸大賞『絆への思い』を受賞して 工芸 板垣 裕美 |
二〇一一年の震災では多くの人が大切な人を失いました。家族や友人がそばにいる事が当たり前である事がどんなに幸せな事かを改めて認識された出来事でした。
色々な人との出会いや支え合いを2本のリボンの絡み合いで表現しました。技術的に難しかったのは、リボンの端を立て、流れるような線を作る事でした。リボンの表の裏をなでる様に彫って仕上げました。8㎝の板の厚さを最大限利用し、リボンを浮き立たせる為に裏側を彫るのも苦労しました。先の曲ったノミや丸・平・三角など、種々のノミを使いました。
素材は楠で紅花で染めました。『目には見えないけれど確実にあるもの』を木のあたたかさで表現していけたらと思っています。
|
「小品部門」 グランプリ受賞者 作品NO・12(烈) 洋 画 遠藤 順夫 |
少しづつではありますがジャンルを広げ、色々な絵に挑戦して行く中で『自分のスタイルとは何か』を発見できればと、探しています。
今回は以前の作品をまったく別の視点から捉えて見てはどうか、と言う事で宇宙の爆裂・変動等をテーマに、勢いのある作品が出来たらいいなという想いで再制作に取り組みました。そんな中、自然の脅威・激しさ又、それに対する人間のはかなさ・弱さへの想い。これは忘れてはならない事でした。
賞の喜びと重みを胸にこれからも皆さまの励ましに感謝しつつ制作努力をして行きたいとものです。
|